温かさ

自動車学校は、幾多の修羅場をくぐりぬけて来たような顔をした教官や、人道的に問題のある、嫌がらせオババばかり居るような、殺伐とした場所かと思っていたら、私の偏見だったらしい。

歩いて自動車学校への坂を登っていると、３人居る受付のオババのうち、一人とはち合わせてしまった。私はなるべく耳元の音楽に集中するフリをして、すごすごと通り過ぎようとしていた。
「見て、綺麗」とそのおばさんは空を指さしながら言った。
群青と橙の混ざる、春の夕焼け空に一筋、長く細い飛行機雲がぐいぐいと弧を伸ばして行くのが見えた。

久しぶりに担当の教官と一緒に乗る。最近は修羅場教官達とばかりだったのである。外は３月の九州と言っても相当な寒さである。帰り際に、
「温かいものでも飲め。」
と言って５００円をくれた。

温かい飲み物を買う必要もなく、ちょっぴりホコホコしながら、自転車のペダルをほっほと漕いで、自宅へ向かう２１時。